アスティングONEコラム

保険診療ルールと診療現場には大きな乖離あり

「保険診療のルールと診療の現場には大きな乖離があり、審査委員は非常に苦労している。支払基金と国保連の審査ルールが同一でない上、支払基金でも地域によりルールに違いがあり、違和感が覚える。さらにガイドラインへの誤解もあり、ガイドラインが機械的に査定の根拠に利用されている場合もある。これらの問題を解消するため、学会や病院代表者などと審査側との定期的な協議の場を、できれば中央に、かつ支払基金と国保連の両者を含めた形で設けるべき。また審査側が使っているレセプトチェック用のソフトウエアも公開すべきではないのか」

 6月25日に開催された厚生労働省の「審査支払機関の在り方に関する検討会」で、ゲストスピーカーとして出席した、虎の門病院院長の山口徹氏はこう指摘した。山口氏は、この3月に報告書をまとめた支払基金の「今後の審査委員会のあり方に関する検討会」の座長を務めた(資料は支払基金のホームページPDF:437KB)。

 「審査支払機関の在り方に関する検討会」の第3回から第5回は、審査関係について、(1)審査実施体制、(2)審査の質の向上や査定率の差異、(3)審査手数料(コスト)・審査の効率化、という3点に分けて議論することになっており、第4回は(2)がテーマ(『レセプト審査は果たして公正中立か」と疑義』を参照)。支払基金と国保連の都道府県別の査定率のデータなども紹介され、支払基金や国保連の支部間格差の解消などが議論された。

 

 「審査は支払基金の方が国保より厳しい」

 山口氏が「乖離」の一例として挙げたのが、アスピリン。「抗血栓薬として認められたのは、2000年のことであり、臨床的に我々が使うようになってから約20年も遅れた。この間は、現場の審査委員の判断で認められてきた」(山口氏)。

 医薬品の適応外使用を認める根拠となる、昭和55年の当時の厚生省保険局長による「55年通知」にも言及、「学会等の働きかけにより、ようやく支払基金も審査情報提供検討委員会で、『55年通知』について検討するようになった。しかし、学会が公知だとして要望しても、実際に認められたのは、2007年は553事例中47事例で8.5%、2009年は826事例中33事例、4%にすぎない。学会は根拠を持って要望しているのになぜ認められないのか理由を示してほしい」(適応外使用として認められる薬剤は、支払基金のホームページに掲載)。

 また、「診療ガイドラインに対する誤解があるのではないか。ガイドラインはエビデンスに基づいた標準的治療法を提供しているが、それ以外の方法を禁止しているわけではない。しかし、診療報酬上には、『ガイドラインにそった医療』を要件にしている点数がある。これはガイドラインをよく知らない人が作成した要件ではないか。療養担当規則や薬剤の効能・効果、あるいは診療ガイドラインは、現在のあるべき適切な医療を必ずしも示しているわけではない」と山口氏は指摘。

 さらに支払基金と国保連のレセプト審査の「差異」について、山口氏は、「支払基金は審査が厳しく、国保連はそうではないという傾向がある。我々は患者に必要だと思って診療しているが、一方で認められても、他方でばっさりと削られることがある。例えば、低蛋白血症に対するアルブミン製剤は、片方では20本まで認められるのに、一方では10本までしか認められない」と例を挙げて説明した。

 山口氏の指摘は、レセプト審査のあり方だけでなく、薬剤の保険適用や診療報酬のあり方にも及ぶ問題提起だ。ただ、診療報酬などですべてルールを規定することは難しいため、レセプト審査の「差異」の解消に向けて、ルールの解釈などを統一するための学会等と審査側との話し合いの場を設けるべきだと主張したわけだ。

 この山口氏の意見に対し、「内保連と外保連は2年に1回、次期診療報酬改定に反映してもらうため、提案書を出している。ただそれだけでは、学会の要望、特に最新の知見は保険診療の場にフィードバックされないのではないか。学会との意見交換の場は必要」(斉藤寿一・社会保険中央総合病院名誉院長)など、支持する意見が相次いだ。

 支払基金はルールの公開には消極的

 もっとも、レセプトチェック用のソフトウエアの公開については、支払基金は否定的意見を述べた。山口氏は、「各病院では事務方が一生懸命にレセプトのチェックをしている。にもかかわらず、提出するとチェックをされる。それは、診療側がルールをよく知らないから。我々はチェックされるレセプトを出したくて出しているわけではない。いいと思って出したら、チェックされ、『これは何だ』というやり取りをしなければならない。これは非常にムダな話。電子レセプトでは、システムチェックを行っているという。そのソフトウエアを全病院に配布してくれればいい。ルールが公開できるものは公開すればいい。そのところを議論せず、支払基金と国保連の査定率の差異などを議論するのはどうか」と提案。

 これに対し、足利聖治・支払基金専務理事は、「できるだけルールを統一して、公開で、ということだが、審査支払機関の在り方に関する検討会でも、こうした議論があった。『医療の標準化につながる』『適正レセプトの提出につながる』という肯定的な意見がある一方で、医療は個別具体的に行われるので、個別ケースによる判断があり得るため、一律のルールにしてしまうと、例えば、『基準ギリギリまで20本、請求すればいい、そこまで認められる』などとなり、かえって適正化につながらないという意見もある。検討会の中では、ルールの公開については見解が分かれた」と答えた。

レセプトを交換し、支部間差異を調査

 そのほか第4回会議では、支払基金の足利氏が、「審査委員会の機能強化のための新たな方策」と「レセプト交換による支部間差異の調査」について説明した。

 支払基金では、審査支払機関の在り方に関する検討会の報告を踏まえ、2010年6月から、(1)「審査に関する苦情等相談窓口」の設置、(2)「専門分野別ワーキンググループ」の設置、(3)「審査委員長等ブロック別会議」の開催、(4)「審査委員会間の審査紹照会(コンサルティング)」の実施、(5)「医療顧問」の設置――を開始した。

 「レセプト交換による支部間差異の調査」とは、2009年8月分で査定率が低い山口支部(件数ベースで0.454%)と、査定率が高い福岡支部(同1.596%)の二つの支部のレセプトの一部を、山口支部、福岡支部、千葉支部でそれぞれ審査した調査。

 その結果、以下のようになり、足利氏は、(1)3支部の審査において、審査実績および返戻率が異なる、(2)山口支部では自支部のレセプトと他支部のレセプトで審査実績が異なる――との解釈を示した。ただし、「調査対象レセプト数は、毎月の取り扱い件数と比較して少なく、全診療科を網羅したわけではない」などの留意事項があるとし、今後、3支部の審査結果が異なる理由についてさらなる分析が必要だとした。

【レセプト交換による審査状況】(結果の一部を抜粋)
◆山口支部のレセプト(医科8699件)の審査
・査定件数率 山口支部1.667%、福岡支部12.645%、千葉支部6.679%
・査定点数率 山口支部0.136%、福岡支部1.121%、千葉支部0.337%
・返戻件数率 山口支部1.023%、福岡支部2.173%、千葉支部1.609%

◆福岡支部のレセプト(医科8697件)の審査
・査定件数率 山口支部9.061%、福岡支部10.256%、千葉支部9.233%
・査定点数率 山口支部0.564%、福岡支部1.108%、千葉支部0.356%
・返戻件数率 山口支部2.530%、福岡支部1.736%、千葉支部1.472%

 査定率は件数、点数ともに支払基金が国保より高い

 さらに、支払基金、国保連の都道府県別の差定率(件数、点数)のデータも示された。対象は2009年4月から2010年3月の審査分のレセプト。

 全国平均で見ると、査定件数率は、支払基金0.84%、国保連0.55%、査定点数率は、支払基金0.20%、国保連0.11%で、いずれも支払基金の方が高い結果になっている。

 さらに査定件数率を都道府県別に見ると、支払基金で最も高いのは大阪府で1.38%、最も低いのは石川県の0.40%。国保連では和歌山県が1.56%で最も高く、低いのは秋田県と新潟県の0.22%。

 これらのデータに対し、保険者の立場からは、「全体の請求件数、請求点数から見れば査定部分は少ないというが、保険者の立場から言えば、それでもなぜこれだけの差が出てくるのか、疑問」(粟生田良子・埼玉県毛呂山長住民課長)、「支部間差異があるかどうかの議論は終わっている。いかにその差異を埋めるか、その対策を議論すべき」(高橋清彦・中国電力健康保険組合常務理事)といった意見が出た。

 第4回の最後に、座長の森田朗・東京大学大学院法学政治学研究科教授は以下のように述べ、会議を締めくくった。

 「差異の問題は、一つはルールの在り方にあるのだろう。ルールには、ミニマムか、標準か、理想を書いたものなど、いろいろな性質がある。そもそもガイドラインがどんな性質かを決めることが、差異を減らす要素になるだろう。また、ルールは一般的にはミニマムを定めるものなので、変える場合には慎重な手続きが必要。新しい義務をどこに設定するかについても相当慎重に対応しなければならない。したがって、ルールを変えていくには、どうしてもタイムラグが生じる。このラグをいかに縮小していくかという話と、ラグを縮小してフィードバックしていく手続きをどうするかだが、今、(学会などとの)意見交換の場がないということで驚いている。この辺りを早急に考えていく必要があるのではないか。

 さらに、(審査の)差異を統一していくことは望ましいが、ケースバイケースで幅があるのは致し方がないことでもある。この幅が合理的な範囲に収まっているのかを検証していかなければならない。さらに審査に当たっては、本当に医学的な判断をする部分と、それ以外の部分があるが、それ以外にかかっている部分のコストが相当あるのではないか。統一的なソフトウエアを配れば、かなり事務の効率化はできるのではないか」


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